願い事一つ

「眠れないのか」

 手を組み、祈るように夜空を見上げていたコレットは声のした方を振り返った。

「なんだか、寝付きが悪くて。前に教えてもらったみたいに、星を数えてたんですけど」

 焚き火からわざと少し離れた場所で、コレットはクラトスに微笑みかけた。
 言いながら、少し不思議に思う。
 天使化の影響で眠れなくなってしまったことはこの男性にも伏せている。
 野営の見張りで、一人寝ずの番をする機会が多いから、もしかしたら感づかれたのかもしれない。
 聞こえてくる寝息が規則正しいものと確認して、コレットは小声で話し始めた。

「流れ星見えないかな、って思ったんですけど、難しいですね」

「神子は、星に何を願うつもりなのだ?」

 コレットは一つ、目を瞬かせた。この男性から問われるにしては、珍しい質問だった。

「……流れ星を探すということは、何か【願い】があるからなのだろう?」

 低く、落ち着いた声が促してくる質問の意図にコレットは微笑みながら答える。

「――『みんなが幸せに生きられますように』」

 ――【コレット】という存在が、居なくなっても。

 再生された世界を、自分は決してこの目で見ることは出来ないけれど。

 眠るロイド達の寝顔を見つめてコレットは柔らかな微笑みを浮かべた。
 薪の爆ぜる音が響き、夜の静寂だけが沈黙を支配する。

「神子は自分を、世界のための犠牲だとは思わないのか」

 クラトスの思わぬ問いにコレットは目を見開いた。


 ――自分が、神子じゃなければ、とか。
 ――普通の女の子だったら、ずっとロイド達の側にいられたのに、とか。

 考えなかったわけではない。けれど、考えても仕方のない事だととうに解りきっていた事だから。
 目の前で困っている人がいて、自分にしか助ける事が出来ないのだと言われたならば――自分は迷わずその人を助けるだろう。
 それが世界か、大切な人達かの違いだけであって。
 どちらも大切だと、気付いてしまったから。

 今となってはそれも、愚問にしかならないけれど。

「思いません」

 哀れみも嘆きも、同情もない。ただ確認するだけの問いかけ。
 クラトスの瞳に、非難も、反発の色もなかった。
 寧ろ、どう答えたとしても容認してくれるだろう事をコレットは感じ取っていた。だから。

 迷わず即答したコレットに、クラトスは「……そうか」と返しただけだった。

 ――自分の居ない世界で、みんなが『幸せ』に暮らすこと。

 ――今も昔も、願う事は唯、一つだけ。
 たった、一つだけなのだから。