(だいじょぶ。……絶対、ばれたりなんてしないから)

 隠し通すことには慣れていて。
 その日も、それで通るはずだった。



笑顔の裏





「ど、して……」

 舌先が乾いたかのように張り付いてうまく言葉が紡げたか解らない。
 それさえも含めて目の前の少年は辛そうに言った。
 気付いてやれなくてごめん、と。
 ――彼は人のことをよく見ているから。いつか感づかれるのではないかと怖かった。
 それが今で、とても怖いはずなのに、奇妙なほどどこか冷静な部分も存在していた。ほんの少し前までは確かに感じられていたはずの温もりも、感触も、痛みすら無くなってしまって。
 今が泣きたいほど悲しい時であるはずなのに、涙すら一粒も零れ落ちることはなく――なのに。

(痛いって感じる気がするのはどうしてかな、ロイド……)

 気付かせないようにやってきた。ジーニアスも、恐らくリフィルですら気が付いていないだろうこの事実。
 あの傭兵の男性は分からない。それでも、最も自分が恐れて、悟られたくなかった少年。
 よりによって一番気付かれたくない人に気付かれてしまった。

 隠し通せると、思っていたのに。

「ごめん、コレット……!」

 絞り出されるような声に、コレットはこの声が聞きたくなかったからなのだと今更ながらに自覚する。抱きしめられる腕に力が増しても、それが痛みを伴うものなのかすら解らなくなっていた。

「ロイド……」

(もしかして、泣いてるのかな……)

 控えめに声をかけると、慌てたように少年はコレットから身体を離した。

「ごめん、コレット! 痛かったか!?」

 必死な表情が、少年がだいぶ混乱しているであろうことが窺える。一通り少女の身体を点検して、何事もないと知るとほっとした表情になり、質問すること自体の矛盾に気付いて少年は表情を歪める。

 ――ああ。



 その表情が。
 その仕草が。





 何よりも自分を想ってくれている、その優しさが。





(ロイド……)

 今まで黙っていたことへの呵責と、後悔の念と、罪の意識が。一度に沢山のものが襲ってきて、本来なら、今頃とっくに自分は泣いているはずだと確信できるのに。
 涙も出ないと言ったら、ますます悲しそうな顔をさせてしまった。

(でも、きっとだいじょぶだから)

 彼は未だ、核心に迫ってはいない。真実に気がついていない。このまま、最後の試練まで乗り切って、やがて自分は完全な天使となる。
 ――そうすれば、この『痛み』からも解放されるから。

(……だから、だいじょぶ。痛みを感じなくなるのはきっと、恐れを無くす為なんだね……)

 迷ってはいけない。想いを残してはいけない。天使となって、この世界を再生する。
 少年達に愛されて、必要とされていたことを胸に抱いて天使になる。
 自分一人の犠牲で済むなら、







 大切な人達が生き続ける大地であるなら、本望なのだ。







「……ロイド、だいじょぶだから」

 そっと、胸の内を染みこませるように。
 コレットは最大級の笑顔を浮かべた。